星だけが僕を見ていた あとがき
あとがき この小説は、一九九九年七月十四日から二〇〇〇年五月十五日まで、つまり小説上での小林慎一(仮名)の命日から二十歳の誕生日にあたる日までを、僕の記憶を頼りにして書いた自伝的小説です。 これを書き始めたのにはあるきっかけがありました。...
星だけが僕を見ていたvol.11
11、歌を聞かせたかった 僕は翌年の2000年4月に横浜の大学に進学した。あの時亜季さんに会ってから、もう半年が過ぎようとしていた。 僕はあの日以後「このままではいけない」と思い、また予備校の友達と一緒に勉強するようになった。なんと言って戻ればいいのかもわからなかったので、...
星だけが僕を見ていたvol.10
10、ただ、それだけの事 月日はただ過ぎてゆく。しかしこの時期ほどその言葉が当てはまる時期を僕はまだ知らない。この一ヶ月は亜季さんと出会ってから追悼ライブをやるまでの一ヶ月と本当に同じ一ヶ月という時間だったのだろうか。 「されど一日」という言葉を聞いた事がある。どんなに充実...
星だけが僕を見ていたvol.9
9、深く沈みこむ僕の音 人は多分希望を追い求める生き物だと思う。それはきっと絶望を恐れる事の裏返しで、絶望を見たくないから希望にすがるといったものだと思う。あの時の僕の周りには見ていたい希望などほとんどなかった。僕の現実は、距離のできてしまった予備校の友達と受験勉強だけだっ...
星だけが僕を見ていたvol.8
8、共振 NYの同時多発テロの二年前にあたる一九九九年九月十一日。町田のライブハウスで「小林慎一追悼コンサート」は行われた。 最後の追い込みでかなりのスタジオ練習をしたが、練習不足、もしくは実力不足は明からだった。しかし、やるしかない。最初は実現するのかどうかも半信半疑で始...
星だけが僕を見ていたvol.7
7、現実という世界 次の日、朝起きてみると現実は現実のままだった。昨日の夜の出来事で落ち込んでいると言えばそうだったが、その何も変わらない現実の朝がそれを救っていたように思う。それに落ち込んでばかりもいられなかった。この日は追悼ライブとは別にもう一つのライブの日だった。...
星だけが僕を見ていたvol.6
6、初めての感情 「なんで、なんで亜季さんがいるんだ?みんなと。」 町田のスタジオの待合室に入った時、黒田君や勝さんと一緒に楽しそうにしている亜季さんを見た。集合時間よりも十五分以上も早いのに三人もそろっているわけがない。声にこそ出さなかったが僕の心は大きく揺れた。...
星だけが僕を見ていたvol.5
5、ふたり 二日後の昼、僕は下北沢の駅前で亜季さんを待っていた。いろんな髪型や服装をした人達でごったがえす中、約束の時間を過ぎても現れない待ち人。こんな時、僕の心は穏やかでいられない。 あの日から、一学年下(誕生日の関係で同じ18歳だったけれど)の女の子に完全に心を奪われて...
星だけが僕を見ていたvol.4
4、夏の日のこと その後も僕達はしょっちゅう会って遊んでいた。そして僕達三人の関係が深まるにつれて、亜季さんは他の第九のメンバーとも関わっていった。黒田君は「亜季の意志だ」と言っていた。そうしていく中で、どこからともなくこんな話が持ち上がっていた。...
星だけが僕を見ていたvol.3
3、鎌倉へ 1999年8月19日の朝、僕は小田急線千歳船橋駅のホームのはじで亜季さんを待っていた。多少早めに着いたのだが、約束の時間が少し過ぎただけでかなりそわそわし始めてしまった。 「本当に今から鎌倉に行くのかな。時間過ぎても来ないし、中止になったのかな。携帯も持...