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特集記事

星だけが僕を見ていた あとがき

あとがき

 この小説は、一九九九年七月十四日から二〇〇〇年五月十五日まで、つまり小説上での小林慎一(仮名)の命日から二十歳の誕生日にあたる日までを、僕の記憶を頼りにして書いた自伝的小説です。

 これを書き始めたのにはあるきっかけがありました。

 二〇〇二年の十月。僕は亜季さん(仮名)と電話で話す機会がありました。黒田君と長江君(それぞれ仮名)も集まっていたのですが、僕はバイトで行けずその休憩中に彼らに電話をしたのでした。

 最初に黒田君と電話で話し、次はいよいよ亜季さんでした。最後に会ってから約三年。僕は緊張しました。

 「やっほー松原。元気?」

 「声も忘れた!」

間髪入れずに飛び出した言葉がこれでした。僕はあれほど好きになった人の声をすっかり忘れていた事に驚きを隠せませんでした。亜季さんはいきなりそんな事を言われて怒っていました。この場を借りて謝らせて頂きます。本当に、ごめんなさい。

 僕はあの頃の事はずっと忘れないだろうと思っていたのですが、この時初めて三年という月日の重さを知りました。いい意味で忘れていく事は大事なことでしたが、この事を忘れてしまうのは本当にもったいない事と感じました。とにかく、どんな形でもいいから残すべきだと思った事が全ての始まりになりました。それから二年。物を書いたことも無かった自分がよくもやり通したものだと思います。

 描かれているこの10ヶ月間というのは、赤ん坊が生まれてくるまでに生を受けてから10ヶ月以上かかるように、人が死んで、それを僕がちゃんと受け入れるまでにかかった月日でもありました。この物語がみなさんの心に何かを残す事が出来たなら本当に嬉しいです。

 最後に感謝の言葉を書かせて頂きます。この小説を書くもう一つのきっかけを作ってくれた郁ちゃん。この小説を書き続ける意欲を与えてくれた高田君、中川さん、夕季さん。ずっと僕を支えてくれたみんけんの皆さんやツタヤの方々。最後まで執筆、校正などを手伝ってくれた奈緒ちゃん。そしてこの小説に登場する全ての人々に感謝します。本当にありがとうございました。

 これを以ってあとがきとさせて頂きます。

2004年10月20日深夜自宅にて

       松原 史明

追記

10年後のあとがき(2012年)

あれから十年もの時間が流れて、もしかしたらこのまま会うことも無いのかもしれないと思い始めていた。その間に僕は大学を出て、音楽の夢を追って、挫折して、就職をして、結婚もした。関西に移り住み新たな生活を始めた僕にとって、あの頃のみんなと会うのはもう絵空事のように感じていた。

そんなある日、横浜の大学時代の友達と一緒にやっていた草野球チームの試合があり久しぶりに関東に出掛けた。けれど雨の影響で試合の2時間前に中止が決まり、僕はやることがなくなってしまった。

 でも、すぐにやることは決まった。墓参りだ。7月14日、慎一くんの命日。数年振りに鎌倉に向かい、花を片手に線香をあげた。

 蘇る当時の記憶、景色、匂い、感情。みんな、元気かな?亜季さん、どうしてる?

 もうあの頃とは時代が違った。携帯すら持っていなかった僕も、ネットで君の情報くらいは手に入れられた。亜季さんは、東京のお店で料理を出している。今なら顔くらい見れるはずだ。

「これが最後の機会になるかもしれない」と思った僕は決断した、慎一が後押ししてくれたのかもしれない。一つ大きく息を吸い込み僕はお店の扉を開けた。

「2012年7月14日の日記より」

いつか会いたいと

ずっと思っていたのに

昨日の自分は想像もしていなかった

会ってる時もその後も

驚く程地に足が着かなくて

気がついたら

どこに行くのかもわからない電車に乗っていた

知らない道をただ歩いてようやく周りが見え始めた時

よく知るはずの歌が聴こえてきた

「花の名」

簡単なことなのに どうして言えないんだろう?

言えないことなのに どうして伝わるんだろう?

一緒にいた空を忘れても 一緒にいたことは忘れない

あなたが花なら たくさんのそれらと 変わりないのかもしれない

そこから一つを 選んだ僕だけに 歌える歌がある あなただけに 聞こえる歌がある

僕がここにあることは あなたのあった証拠で

僕がここにおく歌は あなたとおいた証拠で

生きる力を借りたから 生きてるうちに返さなきゃ

涙や笑顔を 忘れた時だけ 思い出してください

同じ苦しみに 迷ったあなただけに 歌える歌がある 僕だけに 聞こえる歌がある

みんな会いたい人がいる みんな待ってるひとがいる

会いたい人がいるのなら それを待ってる人がいる いつでも・・・

あなたが花なら たくさんのそれらと 変わりないのかもしれない

そこから一つを 選んだ僕だけに あなただけに いつか 涙や笑顔を 忘れた時だけ 思い出してください

迷わず一つを 選んだあなただけに 歌える歌がある 僕だけに 聞こえる歌がある

僕だけを 待ってる人がいる あなただけに 会いたい人がいる

※※※

君が僕に気付いて「泣きそう」と言った時

僕が呆気に取られたのは

君にとっての僕は大した意味を持たないと信じていたから

関西に向かう新幹線の中で

花の名の歌詞の意味を噛み締めていたら

僕もようやく涙が出たんだ  


後でもう一度お試しください
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